Special Interview
OHZKEY、Oichi、XF MENEW、Vanity.Kという4MCに、DJ兼ビートメイカーのCaster Mildに加えた5人からなるSugLawd Familiar。2023年にAwichとCHICO CARLITOが参加した「LONGINESS REMIX」のバズで一躍脚光を浴び、全国に名を知らしめた彼らが、気持ちも新たにメジャーデビューを果たした。空前のヒットから約2年。空白期間とも言える年月を5人はどんな思いで過ごしていたのか。グループ結成からのヒストリーをおさらいしつつ、葛藤を乗り越えて作り上げた10月22日配信のリリースメジャー1stシングル「HOPE」で試みた挑戦や、続いて11月26日に配信リリースされる2ndシングル「DAMN」の制作エピソード、さらに今後の野望まで大いに語ってもらった。

――全員2002年生まれでMCの4人は同じ高校出身だそうですね。まずは結成の経緯から教えてください。
OHZKEY:高校1年生の時点で、それぞれラップは始めていたんですけどクラスは別々だったんです。僕とXF MENEW(以下MENEW)が同じクラスで、Vanity.K(以下Vanity)とOichiが同じクラス。それぞれタッグでラップをやっていて敵対するような感じもちょっとあって(笑)。
――最初はライバルみたいな感じだったんですね。
OHZKEY:それで2年生に進級したときに僕とOichiが同じクラスになって仲良くなって。その年の球技大会で4人で話す機会があったんです。そのときに僕の家にレコーディング機材があったからみんなで学校帰りに曲を作ろうよって。そのときにヴァイブスがいいなとなって、それが始まりですね。
――そのときに作った曲は世に出ているんですか?
Vanity.K:「IT'S A PARTY」っていう曲です。
OHZKEY:ビートジャックで作ったから「IT'S A PARTY SugLawd Familiar Remix」という曲名でSoundCloudに挙げてます。
Vanity.K:アレはアレなりに初々しさがあっていいと思いますよ。
――Caster Mild(以下Caster)は高校が違うそうですが、どういう繋がりなんですか?
Oichi:僕とCasterは中学校が一緒なんです。
Caster Mild:Oichiとは地元が一緒で音楽イベントに遊びに行く仲だったんです。で、Oichiからメンバーを紹介してもらって繋がりました。
――Casterはどのタイミングで加入するんですか?
Oichi:球技大会から1年後くらい。ライブをし始めたくらいで、僕が誘いました。
OHZKEY:最初は違うDJが1人いたんです。その5人でライブをやってたんですけど、1年後にCasterをビートメイカーという形で迎え入れたときに、そのDJが抜けて、そこからCasterがDJ兼ビートメイカーということになったんです。
――現在の5人が揃ったとき、どんな感覚がありましたか?
Vanity.K:ひたすら楽しかったですね。先の事はあまり考えずにやってました。
OHZKEY:区切りがあって始まったわけじゃないから、ここで気持ちがくっと入ったとか、そういうのはなくて。ただ楽しいなっていう感じでした。
――遅れて参加したCasterはどうだった?
Caster Mild:クルーとしてサポートできるなら、いつでも、なんでもやらせてくださいっていう感じでしたね。
OHZKEY:最初、Casterの立場がちょっと下な感じがあったんですよ。ライブとか現場の経験は僕らの方があったんで見習いみたいな(笑)。
Caster Mild:最初はいろいろ教えてもらっていたからね。
――その意識はどこら辺から変わってきたんですか?
Vanity.K:1stシングルの「Longiness」がバイラルヒットした頃ですね。
OHZKEY:「Longiness」を出してライブが増えて、CasterがバックDJとして仕事することが増えていったんです。Caster自体の仕事が増え始めてから、グループ内でのポジションがどんどん変わってきたように思います。
――5人それぞれ、影響を受けたラッパーや好んで聴いていた音楽を教えてください。
XF MENEW:僕は韓国のヒップホップが好きで、特にJUSTHISっていうラッパーに影響を受けてます。「SHOW ME THE MONEY」っていう韓国のオーディション番組を見てスキルを鍛えてきた感じですね。
――韓国語でも自分にフィットする感覚があったんですね。
XF MENEW:自分が宇宙語でフリースタイルするときのノリがめっちゃ似ていて。翻訳しないと意味がわからないけど、音楽として聴くぶんには聴き心地が良くて。かっこいいなと思って、発音を寄せていったりしてきました。
――OHZKEYは?
OHZKEY:僕は志人さんです。もはや神のように信仰してるくらいの存在。小学生の頃から志人さんを聴いてて。
――志人を小学生の頃から!?
OHZKEY:最初はYouTubeで見たことがきっかけなんですけど、日本語ラップは言葉の意味がわからないと面白くないと思っていた時期があって。そういうときに日本語は面白いと思わせてくれたのが志人さんなんです。そこからいろいろ聴き始めて、USラップも聴くようになったんですけど、最終的には志人さんに戻って来ちゃう。
――志人のどの曲が好きですか?
OHZKEY:難しいけど「円都家族」かな。都会の家族のことを歌ってるんですけど、解像度がめちゃくちゃ高くて好きです。リリックもすごいんだけどフロウもおざなりにしてない。フロウが先でもないし、言葉が先でもなくて、両方が絡み合って生まれる韻律が唯一無二な感じがして、僕の中でひとつの到達点が志人さんなんです。今でも影響を受けてるし、行き詰まると志人さんに立ち返る感じがあります。
――Oichiは?
Oichi:自分の核とまではいかないけど、おおまかな一部になっているのはMac Millerですね。Mac Millerは飛行機に乗るときに絶対聴くんです。なんかいいんですよね。
――雲の上で聴くMac Millerが味わい深いんだ。
Oichi:そう。遺作となった『Circles』とか、儚げな音楽にめっちゃ惹かれるんです。生前最後のアルバムとなった『Swimming』もめっちゃ良くて。特にメロウな感じが好きだし、自分はMac Millerに作られてるところはあります。
――Vanityは?
Vanity.K:もともとはMCバトルばかり見てたんですけど、中3のときに楽曲を聴いて初めて泣いたアーティストがいて。それがZORNさんの「My Life」なんです。“うわ、ラップってこんなに人を喰らわせられるんだ”と思って。
――ZORNでリリックの重要性にめざめた?
Vanity.K:リリックはもちろん、ライムですね。ライムってこんな大事なんだって。そこからいろんな楽曲を聴くようになったんですけど、今、フロウはEarthGangとかDreamville Recordsのアーティスト勢に影響を受けてますね。
――Casterはどの辺りの音楽が好きなんですか?
Caster Mild:個人的にはハウスミュージックが好きです。Oichiもハウスが好きで。
Oichi:90年代くらいのハウスが好きなんです。僕らが好きなのはハウスというよりダウンテンポに近いですね。オーガニックな音がめっちゃ好きで。たとえばボンゴの音とか。
Caster Mild:そういうのも聴きつつ、USのブーンバップはOHZKEYから教えてもらったり。自分で作るときもオーガニックな音で構成されているものが好きです。
――2020年に発表した1stシングル「Longiness」がバイラルヒットして順調なスタートを切りましたが、どんなことを書きたかった曲なんですか?
OHZKEY:当時とにかくシーンにムカついていて。もっと僕らはかっこいいことをやりたいのにって沸々としていたんです。同世代のラッパーは沖縄にたくさんいたんですけど、見ているところが全然違うというか、売れてるアーティストの真似事をしてるじゃんと思ってたんです。USのヒップホップというか、ヒップホップといえばコレだよねっていうのをそのままトレースしている感じに違和感があって。僕は昔から日本語ラップをたくさん聴いてきて、日本語をどう昇華するかという作業をやっていた人たちの曲を聴いていたから、そこと比べちゃうとちょっと違うなと思っていて。そのムカつきを100%ぶつけた感じです。
――Vanityもシーンに対する気持ちを書いた?
Vanity.K:僕は周りにいる人間に向けて書いていて。当時、ライブで前座を結構やらせてもらっていたんですけど、そこで一緒になる年上の人たちはファッションでやってるなと感じてたんです。かっこいいと思われたいだけなんだろうなとか、ファッションを真似るだけで満足しちゃってるなとか。大学生のノリでやってます、みたいな人たちが多くて。そのモヤモヤを曲で発散したんです。
――「Longiness」にはOHZKEYとVanityしか参加していませんが、その理由は?
Vanity.K:もともと4人で曲を作るということにあまり執着していなくて。当時、あのレゲエのビートに乗せられるスキルを持っていたのは僕とOHZKEYだけだったんです。
OHZKEY:そもそも「Longiness」はあのビートで僕がサビを書いたんですけど、僕が歌えなくて、Vanityに投げてみたらハマりがよくて。じゃあ、2人で作ればいいじゃんっていうことであの曲ができたんです。
――楽曲を作る際、その曲に参加する・しないは挙手制なんですか?
OHZKEY:基本、曲を発案したメンバーが誰かをピックアップすることが多いですね。挙手する場合もあるんですけど、誰がやるかはアイデアを出した人間のイメージにマッチしてるメンバーが担当するっていう。
――そこから3年後、AwichとCHICO CARLITOが参加し、 2023年1月にTHE FIRST TAKEで公開された「LONGINESS REMIX」が大きくバズりました。音楽に向き合う気持ちや環境にどんな変化が起こりましたか?
OHZKEY:あの曲がバズってお仕事が増えて、ライブが増えて、露出が増えたんですけど、“僕らにはこの曲しかないな”感というか。世に届くべき、もっといい音楽を作れている自負はあったんですけど、あの曲しか求められないっていう現実を知って、そのぶん喰らっちゃうというか。嬉しい反面、もっと頑張らなきゃなっていう気持ちがありましたね。
――OichiとMENEWは原曲にも参加していないから、人一倍、思うところはあったんじゃないですか?
Oichi:悔しい気持ちはあったんですけど、まずは嬉しかったですね。生活が変わったのでやる気は出たんですけど、バズって調子に乗ったところもありました。特に「Longiness」の原曲がバズったときは鼻が伸びに伸びていたと思います。
XF MENEW:僕はお母さんが元気になりました(笑)。親戚と話すにしても、職場の人と話すにしても、お母さんがまず僕の話をするので。
――「ウチの自慢の息子がさぁ」状態。
XF MENEW:親戚や兄弟もいろんなところであの曲を広めてくれていたから嬉しかったし。けど、僕は参加していないから悔しい部分もありましたね。でも、本当あの曲は僕ら5人の人生において一番大事な曲になりました。
――「LONGINESS REMIX」のバズを受けて、翌年2024年3月にEP『DAY TIME SNACK』をリリースしました。どんな作品を作ろうと考えたんですか?
Vanity.K:あのEPは、新曲も4曲入れただけだし、ひとつのテーマを考えて作ったというより、それまでに出してたシングルをまとめようという気持ちが大きかったですね。
OHZKEY:僕らの区切りですね。というのも、当時、新しく作っていた曲がそれまでの曲と毛色がまったく違っていて。僕らのヴァージョン1として、それまでに作っていた曲を一旦まとめようという感じで作ったんです。
――EP収録の新曲にはNARISKやMET as MTHA2といった外部プロデューサーが参加していました。Casterはそれをどう思っていたんですか?
Caster Mild:「いいじゃん」って率直に思いました。グループとしていいことじゃないかって。今もそうですけど、僕はその時々でメンバーと波長があって曲ができたらいいなという考えなんです。新曲として入れた「Natural Buzz (feat. OHZKEY, Oichi & Caster Mild) 」は僕が作ったんですけど、そのときにメンバーとフィーリングが合ってできた曲だから、むしろ自分の作ったトラックでグループの曲を作れたことが嬉しかったですね。
――Casterのトラックで全曲を作るという決まりじゃないんですね。
Vanity.K:Casterから「これを使って」っていうこともないし、僕らから「こういうビートを作って」ということもなかなかなくて。本当その場のフィーリングで作ってるんです。
――そのときにCasterが良いビートを持っていれば使うというスタンス?
Vanity.K:そうです。あるいは、「何かワンメイクしない?」っていう流れからCasterがビートを打ち始めて作ることもあって。「Natural Buzz」はそうだったんじゃない?
OHZKEY:いや、アレはCasterが急に持ってきた。
Caster Mild:作ったのが2023年の年明けだったんですよ。だからとりあえず新年っぽい音というか、神社のCMで流れてるような音を入れたいなっていうところから作ったんです(笑)。
OHZKEY:Casterはまったく白紙の状態で、ゼロから作らせた方が振り切ったものを作るんです。120点をたまにポンと出すので、僕らから「こうして欲しい」って言わないほうがいいのかなって。その方がCasterもやりやすいし、僕らもそういうCasterのビートを選びたいんですよね。
Caster Mild:僕もそういう方がありがたい(笑)。トラックメイクはまだ勉強中だから、自分から土台を作って、「これどう?」っていう感じじゃなくて、「こういう感じでやって欲しい」っていうことをメンバー同士で話し合いながら1曲作れたらなって。それが理想ですね。
――「LONGINESS REMIX」で大きな注目を浴びたものの、その後はアルバムリリースがなく足踏み状態だったように思います。空白期間とも言えるこの2年間はどのような状況だったんですか?
OHZKEY:グループとしての明確なヴィジョンがなく、ありがたいことに声がかかるからライブをするとか、そういう感じで回していて。アルバムを作ろうと思えば作れたはずなんですけど、そこまでの熱量も徐々に失われていき……。その一因にはメンバー全員、いろんな曲を聴くようになったことがあるような気がします。そこで、この世界にある音楽はヒップホップだけじゃないなと思ったり、空白期間はすごく自分と向き合う時間になっていたんだと思います。
――「Mステ」にも出たし、「POP YOURS」にも出たし、AwichのツアーではZepp DiverCityや横浜アリーナにも立ちました。大きなステージに立って達成感や満足感はあったんじゃないですか?
Oichi:それはあったと思います。だから天狗になっていく。
OHZKEY:外から見たら華やかだったと思うんです。ライブは毎週のようにいろんなところでやれているわけだから。だけど、中ではちょっとやばいなと。ヴィジョンもないまま突き進んでいるので、どこに行くんだろう?みたいな。全員がそういう感じだったと思います。
Vanity.K:大きいステージに立って満足感はあるんですけど、もっと他の曲でいけるのにっていうモヤモヤ感があって。「Longiness」はレゲエ調なので、みんなレゲエ調の曲が欲しいのかな?とか。でも自分たちのやりたい曲とは違うからギャップがあったりとか。
Oichi:あの頃は「なにしてんだろ?」っていう感じでした。自分のやりたい音楽を探しているんだけど、なかなか見つからない。だけど、スケジュールはライブで埋まっていくから余計にその気持ちにブーストがかかる。
XF MENEW:かなりの数のライブをやってきましたけど、僕らが得たものは正直少ないかもなって。その時間を制作に費やせば良かったかもなと思ったりしました。その空白期間があったから今があるんですけど、みんな悶々としていましたね。
――そもそも曲作りは、誰かが号令をかけてみんなで集まるところから始まるんですか? それとも各自で自然発生的に作ったデモを持ち寄るスタイルなんですか?
Vanity.K:各々が自然発生ですね。自分で良いヴァースが書けたら、2ヴァース目は空いてるから誰々をピックアップしてっていうのが、ほとんどでした。
――だから、空白期間が生まれたのかもしれないですね。曲作りのスタートがひとりひとりに任されているのに、それぞれがモヤモヤしてる。
Vanity.K:そうですね。いろいろな曲を聴くようになったぶん、ジャンルもバラバラになっていて。書いてくる曲はかっこいいんだけど、それに乗せられるスキルがなかったり。
OHZKEY:曲を作っていても「めっちゃいい!」ってバシッと決まる感じがなくて。「んん、まあいいね」の連続で満足感を得られてなかったんですよね。
――そんな日々を送るなか、自分たちの中でギアが入ったターニングポイントはどこなんですか?
OHZKEY:メジャーデビューの話を頂いてからです。人に曲を届けるっていうことに意識を向け始めたんですよね。ライブをたくさんやっていたときはその意識がなくなっていたんです。だからライブでもリリースしてない曲をたくさんやったりして、リスナーをないがしろにしているアーティストになってしまっていた。それこそ「Longiness」で書いた、僕が一番嫌いだったアーティストになってしまっていたんですよ。
――メジャーデビューの話は、いつ頃もらったんですか?
Oichu:去年(2024年)の11月頃ですね。
OHZKEY:メジャーデビューの話を頂いて、最初の制作をするときに初めてゼロからゴールまで方向性を決めて制作したんです。苦しかったんですけど、そこでやっと長年感じられなかった満足感を得られて、探していたものを形にできた感じ。僕の中では今、そういう作り方がめちゃくちゃ楽しいんです。
――それが今年7月にリリースした「Longiness (Champlue REMIX)」ですか?
OHZKEY:そうです。この曲をどういうグルーヴで、どういう内容にして、4人でどう書いていくかっていうことをゼロから決めて作っていったんです。原曲を超えないといけないと思ったから、トラックに対しても、いろんな楽器をイメージして、それをプロデューサーのArt’Teckyxと共有して、やりとりを何度も繰り返していって。そうして完成したオケに僕たちひとりひとりの意見がすべて反映されていたんです。
Vanity.K:それが大きいんですよね。みんなの好きな音楽が違うからひとつにまとめづらいモヤモヤがあったんだけど、そのモヤモヤが取り払われた。
OHZKEY:そうやってプロデューサーと1からオケを作ることがなかったので、納得がいくトラックができたときにすごく満足感があったし、イケるかも!っていう手応えがありました。
――「Longiness (Champlue REMIX)」は、原曲と歌詞を替え、OichiとMENEWも新たに書き下ろしたリリックで参加しました。それぞれ、どういう気持ちを書いたんですか?
Vanity.K:自分は原曲のリリックを使いつつ、当時から今までの心境の変化を書きました。原曲のヴァースは自信満々だったんですけど、今回のヴァースは内省的な部分もありますね。この曲に至るまでにヘイターが増えたし、リスナーも増えた。そういう目線で書きました。
OHZKEY:僕は原曲でアイツらは余命5年みたいなことを言ってて、そこから実際に5年経って自分の方が正直危なかったなと。でも、ご縁に恵まれて、もう一回マジでやってやろうという気持ちになったことを書きました。あと、僕も元ヘイターだけど(笑)、ヘイターもソルジャーになるよっていうことを伝えたくて。そういう人たちも一緒に上がっていこうとか、オマエらも仲間なんだよって言えたらなっていう気持ちで書きました。
Oichi:僕のリリックは、ある意味けじめって感じですね。良くも悪くも古くさい音楽が好きなので、そことの決別みたいな気持ちを書きました。
XF MENEW:自分はオリジナルアートを追求していきたいっていう気持ちを書きました。ヘイターたちが吐く毒は無駄と切り捨て、僕らが時代を変えるぞという意識で書きました。
――「Longiness (Champlue REMIX)」をリリースする前、今年6月から7月にかけて、SugLawd Familiar名義で6曲ものシングルを立て続けに出しました。あれはどういった意図からですか?
OHZKEY:2024年に出したEPがSugLawd Familiarのヴァージョン1だとしたら、アレがヴァージョン2みたいなノリです。曲としてはできてるけど、リリースするタイミングを失って、アルバムとしてまとめる方向にも熱を注げなかったんで、じゃあ、まとめて出しちゃおうと。メジャーに行く前の区切りとして連続でシングルを出して、SugLawd Familiarがまた動き出したよってアピールしたかったんです。
――「Longiness (Champlue REMIX)」を出して間もなく、今度は4MCがそれぞれソロ曲を3か月連続で出しました。これはどういう意図から?
Vanity.K:僕らはクルーとして集まるのが難しいっていうくらい、ソロ活動もガンガンやっていきたくて。じゃあ、3か月連続でそれぞれ曲を出そうと。
OHZKEY:4人で曲を作るのも面白いんですけど、ソロってグループとは違うし、他のメンバーができないようなことをそれぞれ100%フルで出せるんで。SugLawd Familiarはそこが面白いと思うし、コイツはこういうヤツなんだっていうソロとしての色を出したくてああいうアクションをしたんです。
――それぞれ、ソロ曲はどんな仕上がりになったと思いますか?
XF MENEW:僕がリスナーだったら、3曲通して聴くと、“こいつ、めっちゃ人間やん”って思うはず(笑)。「Longiness」がアレだけ跳ねるとプレッシャーもあり、責任もあり、自分の理想とのギャップに葛藤も出てくる。でも、そんな自分の弱さも出しておきたいし、いずれそれも強さになるよって言いたくて。ネガティブは別に悪いことじゃないっていうことを伝えたかったんですよね。
OHZKEY:僕が1曲目に出した「還り」は、今の時代はみんな迷子になっている気がして。コロナ禍が終わっても混沌としてるというか、地に足が付かないまま生きてる人ってたくさんいるなと。そういう人たちに1回ゼロに還ろうよって言いたかったんです。子どもの頃のピュアな気持ちというか、目が輝いていた時期を取り戻して欲しいなっていう気持ちで書きました。
――2曲目の「Old Days」は?
OHZKEY:「Old Days」は僕が空白期間に見ていた世界の話。ネガティブですごく落ち込んでるけど、前に進まなきゃいけないっていう気持ちを書きました。次の「風鈴」は聴く人の背中を押したくて書いた曲。さっき話したように今、僕はすごく満たされているんです。それをちょっとお裾分けしてあげたいなっていう気持ちで書きました。
――Oichiはどのように作りましたか?
Oichi:曲を作るとき、僕は曲と空手の組み手をしていると思ってるんです。フリースタイルに近い形で録るんですけど、そうすると「あ、僕はこういうことを思ってるんだ」みたいなことがわかるし、僕は自分の曲をスルメ曲だと思ってるんです。特に今回の3曲はリリックよりもフロウを重視して作ったし、自分でも3曲のフロウは聞き心地の良さがあって好きなんです。
――自分にフィルターをかけず、ビートからインスピレーションを受けて思うがままに書くことで、そのときの自分を確認・発見できる。そういう意味で何度でも聴けるスルメ曲になると。
Oichi:そうなんです。これから先はやりたいことを明確に決めないと次のステップに進めないと思ってるんですけど、あの3曲は音を感じるままに書いた。自己確認作業ということですね。
Vanity.K:今回の3曲のビートは、ピースフルかソウルフルな感じになっていて。どの曲もポジティブに始まってポジティブに着地するように書きました。曲を作るとき、僕はそのビートが朝の雰囲気なのか、夜の雰囲気なのか、イメージを決めて書くことが多いんです。その上で自分の経験や目に映った風景を書いていくんですけど、「4SEASON」と「Friday Night」は夜で、「Feel Feel Feel」は朝。リリックを聴いて欲しいというより、生活の一部として流れていて欲しいなという気持ちで今回の3曲は書きました。
――ここからは新曲について訊いていきたいんですが、10月22日リリースのメジャー1stシングル「HOPE」は、どんなコンセプトで作ったんですか?
Oichi:“奮い立たせる”がコンセプトですね。通勤中に聴く曲みたいな感じだと僕は思ってます。
OHZKEY:場所を問わず、この時代で闘っているすべての戦士たちに向けて書いたんです。今を生きている人たち、今何かに立ち向かってる人たち、まだ立ち向かえてない人たち、立ち向かう勇気のない人たち……そういう人たちが前に進み出す原動力になるような曲というテーマで作りました。
――自分のことを歌うというより、聴く人々へのエールとして書いたと。
Vanity.K:そうです。そういう作り方は初めてだったから難しかったですね。
OHZKEY:今までは、そこまで人に届けようという気持ちがなかったので。でも、聴く人がいないと成り立たない職業だし、聴く人たちに最大限のリスペクトを送りたいなっていう気持ちで作ったんです。
――かなりの意識改革だと思いますが、作ってみてどうでしたか?
XF MENEW:最高だったっすね(笑)。これまではずっと自分にフォーカスして曲を書いていたから、こんなにもハッピーな気持ちになれるんだって。あと、曲で言ったからには自分もしっかりしなきゃって自分のケツも叩けたし。とにかくこの曲を作って覚悟が決まりました。
Oichi:一年生に戻った感じがありましたね。音楽を作り始めた頃に感じた、満足のいく曲ができたときの達成感を久々に味わうことができました。というのも、「HOPE」の制作期間はめちゃくちゃ髪の毛が抜けたんですよ(笑)。
――えっ!?
Oichi:もうストレスがヤバくて。自分では感じてないと思っていたんですけど、体が反応していたんでしょうね。だからこそ、曲ができてプレイバックした瞬間、鳥肌でした。「これはヤバいわ」って。生きてて良かったと思ったくらい(笑)。
――Oichiはいちばん作り方にギャップがありそうですね。ソロ曲は自分が感じるままにノンフィルターで筆を走らせていったし、フロウ重視で作ってるわけだから。
Oichi:そうですね。今回は聴く人にメッセージを届けることがテーマだから全然違う。けど、“灰になるまで 燃やし尽くして 舞い上がるのさ”って超良いリリックだと思いました。燃え尽きて、灰になって、舞い上がるって、状況がサイクルしてるじゃないですか。そういうところが好きだし、このフレーズはどんな場面で頑張ってる人にも当てはまると思うから。
――“灰になるまで〜”のフックのフレーズは誰の発案ですか?
Vanity.K:みんなで考えて作りました。各々単語を出していって、母音は何がいいかとか、そういうところも考えてみんなでアイデアを出していって。
――フックの始まりがア行の母音で始まるから強い印象を与えますよね。
OHZKEY:実はフックが最後だったんです。オケはチャンピオンサウンドって勝手に名付けて、入場曲みたいな曲調をイメージして作ってもらっていたんです。オケはどんどん完成していくし、僕らのヴァースもできてるんですけど、オケに勝てるフックができない。100点のオケに対して100点のフックを出せない自分たちがいて、それで髪の毛が抜けたんだなと(笑)。
Oichi:だから辛かった(笑)。
Vanity.K:過去イチだよね?
OHZKEY:こうなったら全員ヴァースを書き直さなきゃいけないんじゃないかと思うくらいフックが出てこなくて。
Oichi:考えすぎて、オケから違うんじゃないか?とか思い始めたり(笑)。
XF MENEW:このオケはまだ僕らに早いんじゃないか?とか(笑)。
OHZKEY:オケは間違いなくかっこいいはずなんだけど……とか(笑)。
Vanity.K:それが信じられなくなるくらいドツボにハマっていって。
OHZKEY:フックのフロウも100種類くらい考えたんですよ。最後の最後に、このメロディーとこの歌詞が出てきて、「ハイ、録ろう」となってOichiが録ったときに曲が完璧になったんです。
――“灰になるまで”というワードを出したのはOichi?
Oichi:そうです。思いついたフレーズを適当に書き留めてあって、それをハメてみたらばっちりハマって。「灰になる」もいろんな意味に取れるじゃないですか。
――灰をHighに置き換えて、テンションがハイになるというふうに捉えると、“舞い上がる”というリリックにも繋がってきてダブルミーニングになる。
Oichi:そう。マジでフックはめっちゃ練ったから。
OHZKEY:普段はタイプビートでやることが多いんで、うまくリリックが書けないとビートを変えて逃げちゃうことが多かったんです。そこに逃げなかったことも成長なんですよ。初めて逃げなかったから。そういう意味でも一年生なんです。
――「HOPE」でMENEWがヴァースの最後に書いた“落ちてるモノが何でも拾えるのは下を向いているお前だけ”というフレーズもパンチラインでした。真理を突いているし、前に進み出せてない人にとって、HOPE=希望を導く言葉だなって。
XF MENEW:ありがとうございます!
――「HOPE」はロックサウンドを取り入れていますが、これは誰のアイデア?
XF MENEW:チャンピオンサウンドを作るにあたって、各々が思うチャンピオンサウンドをリファレンスで出していったんです。そこで自分が提案した曲がロック調で、それをArt’Teckyxが汲んでくれたんです。
――ロック調を選んだ理由は新しいチャレンジをしたかったから?
XF MENEW:というより、単純にギターの音が欲しかったんです。ギターが入ると力強さが出るかなって。
OHZKEY:ホーンの音が欲しいというのは僕の発案ですね。僕がリファレンスとして渡した曲の共通点がホーンだったんです。じゃあ、それも使おうということになって。力強くて派手なアンセムを作りたかったんですよ。
XF MENEW:とにかく音はフル装備にしたかったんです。そうして圧を出していこうって。
――11月26日リリースのメジャー第2弾シングル「DAMN」(読み:デム)は、どんなコンセプトから?
OHZKEY:これはとにかくパーティーチューン。正直、僕らは何でもできると思っているんで、「HOPE」で奮い立たせる曲をやったぶん、それとは違う面を出そうと。“伝える”というより“グルーヴを感じてもらう”。そこに重きを置いて作りました。
――2000年代初頭のダンスホールレゲエのテイストや、デンボウの雰囲気を感じるビートですが、プロデューサーのArt’Teckyxとどんなやりとりをしたんですか?
OHZKEY:リファレンスが1個あって。あんまり聴いたことのないビートで、それが新しくてかっこいいなと思ったんで、こういうドラムの打ち方でお願いします、みたいな。リファレンスに出した曲は最近の曲だから音自体は新しいんです。だけど、「DAMN」を作るにあたっては、ミニマルというか、あまり音数を多くせず、余白がある感じにして欲しいと伝えたんです。
――カリビアンテイストも感じる陽気で祝祭感のあるビートですよね。ラップはどのようにアプローチをしようと考えたんですか?
Vanity.K:4人ともわりとフロウ重視で書きました。“パーティーしてるぜ!他は関係ないぜ!”的なアゲアゲパーティーなヴァイブスで書きました。
Oichi:この曲では横に踊りたくて。その感じが頭に浮かんだので、そのまま乗せました。
――髪の毛は抜けなかった?(笑)
Oichi:抜けなかったです(笑)。楽しく書けました。
XF MENEW:僕もクラブをイメージして書きました。4人でここまではっきりしたパーティーチューンを作ったことはなかったんで楽しかったですね。みんな、こういう感じで行くんだっていうのも知れて、またひとつ良い経験ができました。
――楽しいパーティーチューンですが、タイトルに“ちくしょう!”とか“クソ!”みたいなネガティブな感情を指すDAMNという言葉を付けた理由は?
OHZKEY:DAMNは僕らだけのスラングになっていて。発音はカタカナの“デム”で、「それ、デム過ぎるわ」みたいに使ってるんです(笑)。
――どんな場面で使うの?
OHZKEY:全然ヘンな場面でいいんです。たとえば靴下が濡れて困ったら「うわ、デムだわ」みたいな(笑)。誰かがめっちゃお菓子買ってきたら「デーム!」みたいな。
Vanity.K:良いとき、悪いとき、どっちにも使えるんです。
OHZKEY:僕らは日本語と織り交ぜて使うし、僕らしか使ってないスラングだから、それをタイトルにつけてみたんです。
――新曲2曲に関して、Casterはどんな感想を持っていますか?
Caster Mild:「DAMN」はドラムパターンができた時点で、これに4人がラップを乗せたらいい感じになるだろうなって確信してました。
OHZKEY:Casterは合間合間に客観的な意見を出してくれましたね。普段からCasterには、1DJとしての意見をちょくちょく訊くんです。
Caster Mild:「HOPE」に関しては、普段ハウス音楽ばっかり聴いてるので、サウンド面に口を挟むことはできなかったですけど、前のめりなヴァイブスだなと思っていて。できあがった曲を聴いたとき、これはかっこいいなって思いましたね。
OHZKEY:あざっす(笑)。
――「HOPE」のジャケ写には「A」、「DAMN」のジャケ写には「N」と大きく書かれています。楽曲タイトルとは結びつかないデザインですが、これはどんな意味なんですか?
OHZKEY:しばらくアートワークはこのスタイルを続けようと思っていて。A・Nで始まるワードがいつか完成します。
XF MENEW:たぶん、次くらいでわかってくると思いますよ。
――コミックの単行本を本棚に並べたときに背表紙でひとつの絵柄が完成するような?
OHZKEY:それです、それです。文字の中の絵が繋がると、ひとつの絵になるよう企んでるんです。
――新生SugLawd Familiarの全貌を明かす扉が一枚ずつ開かれていくことになるわけですね。それも楽しみにしています。ところで今後はどんなヴィジョンを描いていますか?
OHZKEY:ライブで数万人は埋めたいです。とにかく万単位はやりたい。それと日本のヒップホップをもっと盛り上げて、日本の音楽シーンでJ-POPとヒップホップの立ち位置を同じくらいにするのが夢です。日本のヒップホップはまだまだ大きくなると思うから、J-POPと同じくらいにしたい。
――J-POPとして聴かれているようなヒップホップをめざすということ?
XF MENEW:僕らじゃなくて、J-POPの音楽性を僕らのレベルくらいまで引き上げたいんですよ。
OHZKEY:コレを伝えたいんだっていうマインドが確実にあって、そのマインドを感じられるシーンにしたいというか。正直、日本のヒップホップは遅れているような気がしていて。アメリカの後ろを追うんじゃなくて、独自の進化を遂げなきゃいけないフェーズに来てると思ってるんです。それこそ韓国のヒップホップはそれを遂げているような感じがするし、日本もそれを遂げないとなって。僕らはその牽引役になりたいんですよね。
Oichi:僕はその前にアジアを総なめしたいですね。あと、全員が楽器を弾けるようになって、全員がソロパートを演奏できるくらいになりたい。
――それはまた全然違う角度の目標ですね。SugLawd Familiarがバンド化していくっていうことですか?
OHZKEY:けど、かっこいいよね?
――ちなみにOichiはどの楽器をやりたいですか?
Oichi:ギターとベースは弾きたいです。まだ持ってないんですけど。
――持ってないんかーい!(笑)
Oichi:ピアノだけちょっとできるんですけどね。
――Vanityはどんな目標を持っていますか?
Vanity.K:普段ヒップホップを聴かない人は、ヒップホップに悪いイメージを持ってる人が多いかもしれないけど、よくリスナーに「SugLawd Familiarはヒップホップをあまり聴かない私たちにも聴きやすい」って言われるんです。それが僕らの良さだと思うんですよ。だから、J-POPとヒップホップにある溝を埋めるのが僕らの役割だと思っていて。フロウにしろスキルにしろ自信はあるし、いろんなことを歌詞にできるから何でも作れる。そこはイケると思ってるんですよね。
――Casterの意見は?
Caster Mild:自分はハウス音楽を作ったりして、いろんなジャンルで遊んでるので、僕の好きな分野をメンバーとマッチさせて曲を作りたいですね。そうしてヒップホップじゃない層にもパーティーグルーヴを届けていけたらいいなと思います。
――SugLawd Familiarというグループ名はスペインにある同名建築物が未完成であること=まだまだ発展途上であることにちなんで付けられました。ところが本家のサグラダ・ファミリアは2026年に一部完成予定だそうです。こちらのSugLawd Familiarの完成はいつになりそうですか?
OHZKEY:僕らはまだまだですよ。というか、“未完成のサグラダ・ファミリアが日本にまだあるらしいよ”って言わせたい感じですね。それくらい名を轟かせたい。サグラダ・ファミリアは何世代にもわたって建築されてきましたけど、僕らもそんな感じにしたいんです。未来に託すというか、将来、僕らの曲を聴いて音楽を始めましたっていう人が出てきてビッグになっていく。それがSugLawd Familiarの完成なのかなって思ってます。
インタビュー・文/猪又 孝